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副業先生のバー トップへ 副業先生のバー | Bar Fukugyo-Sensei EPISODE 01 | さやの物語

「宝の持ち腐れ」

私には何もない、と思っていた夜。

🌙
さや 30代・シングルマザー・水商売
🍸
先生 バーのオーナー
📖 読了約15分 🏷 シングルマザー・水商売・スキルなし
I この子のためなら、頑張れる

午前二時。

タクシーのドアが閉まる音が、夜の住宅街に吸い込まれていった。

さやはヒールを手に持ったまま、アスファルトの上を歩いた。冷たかった。でも、それが心地よかった。今夜は同伴から始まって、アフターまで。七時間、笑い続けた。

ビルの谷間から、星が一つ見えた。

(莉子、起きてるかな)

マンションのエレベーターを待ちながら、さやは携帯を開いた。母からのLINEが一件。

👩
お母さん(LINE)
莉子ちゃん、九時に寝ました。今夜は泊まります

胸の奥が、ちくりとした。

莉子は四歳だ。ちょうど、さやの顔をちゃんと認識して、さやの不在をちゃんと寂しがれる年齢になった。それが嬉しくもあり、苦しくもあった。

部屋に入ると、母がソファで居眠りしていた。テレビは消えていて、莉子の描いた絵がテーブルの上に散らばっていた。ピンクのクレヨンで描いた、どこかの家。煙突から煙が出ている。家族らしき棒人間が三人。さや、莉子、そして誰だろう。父親のいない莉子が、どこかで見た「家族」を描いたのかもしれない。

さやはそっと絵を一枚手に取った。

(この子のためなら、頑張れる)

いつも、そう思う。それだけが、今夜も自分をここまで連れてきた。

* * *
II 揺れる心

三月の初旬、常連の中島が個室で言った。

👔
中島(常連客)
さやちゃん、俺んちに来てよ。家賃、出すから

笑顔を崩さなかった。崩せなかった。

🌙
さや
嬉しいですけど、それはちょっと
👔
中島(常連客)
本気だよ。ちょっとしたお小遣いも用意するし、莉子ちゃんの保育料くらい余裕で出るって

グラスを磨く手が止まった。

(保育料)

今月、また引き落とされる。家賃、保育料、食費、光熱費。水商売の給料は、確かに多い。でも出ていく分も多い。ドレス代、美容院、ネイル、タクシー代、お客様への気遣い。残るのは、思ったほどじゃない。

🌙
さや
ちょっと考えさせてください

曖昧に笑って、その場をやり過ごした。

でも帰り道、タクシーの中で、さやは窓の外を見つめながらぼんやりと考えた。中島は悪い人じゃない。むしろ優しい。そして彼の申し出は、現実的な解決策ではある。

(違う違う)

頭を振った。

家に帰ると、莉子がリビングで待っていた。午前一時過ぎに。目が真っ赤だった。

🌸
莉子(娘・4歳)
ママ……
🌙
さや
莉子、起きてたの?
🌸
莉子(娘・4歳)
ママがいないから……
🌙
さや
ごめんね、お仕事だったんだ
🌸
莉子(娘・4歳)
どうしてママはいつもいないの

抱き上げた。小さな体が、さやにしがみついた。

(そばにいたい)

いつもそう思う。夕方に幼稚園に迎えに行きたい。お風呂に入れてあげたい。絵本を読んであげて、「おやすみ」を言いたい。

でも夜が、さやの稼ぎ時だった。

* * *

あれはいつからだろう。

お酒が、辛くなってきたのは。

二十代の頃は平気だった。むしろ楽しかった。でも三十を過ぎて、体が変わった。朝、顔がむくんでいる。昼まで起きられない。胃が荒れる。

鏡を見るのが、少し怖くなった。

お店では、後輩の子たちが入ってくる。二十歳そこそこの、肌がぴんとした子たち。指名が取れる。売り上げが伸びる。さやはいつの間にか、「まとめ役」「教育係」になっていた。

お局、という言葉が、ある夜、耳に入った。

後輩の子が、廊下でひそひそ話しているのを、聞いてしまった。

💬
後輩(廊下で)
さやさんって、なんか怖いよね。もうお局じゃん

笑えた。笑うしかなかった。

(昼の仕事に戻れたら)

そう思ったことは何度もある。でも、計算すればわかる。事務職の求人、手取り十八万。今の半分以下だ。家賃を払ったら、保育料を払ったら、何も残らない。

夜の仕事をやめるためには、別の収入が必要だった。

でも、どうやって。

* * *
III 入院

五月の連休明け、さやは倒れた。

朝、起き上がれなかった。そのまま救急で運ばれて、検査をして、入院になった。

🏥
担当医
肝機能の数値が、かなり悪いですね。しばらく安静にしてください。飲酒は、当面禁止です

白い天井を見上げながら、さやは笑いそうになった。飲酒禁止。それが仕事なのに。

三日目に、母が来た。翌日、同僚の美香が来た。二人とも、帰り際に封筒を置いていった。

合わせて八万円。

🌙
さや
ありがとう

さやは封筒を握りしめた。ありがたかった。本当に。でも同時に、思った。

(これじゃ、何も変わらない)

退院したら、また夜の仕事に戻る。また肝臓をやられる。その繰り返し。

ベッドの中で、ふと、中島の言葉が浮かんだ。「家賃、出すから」。

あの申し出を受けていれば、今頃……。

(違う違う)

首を振って、携帯を開いた。

* * *

病室で、さやは検索し続けた。

「仕事 在宅 高収入」

「稼げる 30代 女性」

「副業 シングルマザー」

出てくるのは、怪しいバナー広告、「月収100万円可能!」の謳い文句、LINEに誘導するランディングページ、「詳しくはDMへ」というInstagramアカウント。

三時間検索して、疲れて、携帯を枕の上に置いた。

ベッドサイドの棚に、一枚の紙が貼ってあった。母が持ってきた、莉子の絵。クレヨンで描いた、太陽と、家と、棒人間。上に、ひらがなで書いてあった。

「ままへ」

さやは、しばらくそれを見つめた。

さやのようなケースは、珍しくありません。「稼げる」「高収入」「在宅」というキーワードで検索すると、今も怪しい情報が大量に出てきます。なぜそうなるかというと、副業を「お金を稼ぐ手段」としてだけ考えているからです。

本当に必要なのは、「自分に何ができるか」という問いから始めること。検索ワードを変えるだけで、見える世界が変わります。

IV 転売、挫折

退院して、さやはお店に戻った。

体に気をつけながら、お酒の量を減らしながら、でも働いた。莉子のために、働いた。

同時に、副業の模索を続けた。まず、転売を試みた。家の中の不用品を、フリマアプリに出した。莉子が使わなくなったおもちゃ、去年買ったけど着なかった服、何年も開けていない本。三週間で、合計一万四千円になった。

(もっと仕入れれば、もっと稼げる?)

Twitterで転売について調べた。YouTubeで転売系の動画を見た。「月収三十万円!」「初心者でも稼げる!」という動画が、山のようにあった。

何を仕入れればいいか、さっぱりわからなかった。

「リサーチツールがあれば解決します」というYouTuberを信じて、月額一万二千円のツールに課金した。使い方がわからなかった。サポートにメッセージを送ったら、「マニュアルをご覧ください」と返ってきた。マニュアルを読んだら、英語で書いてあった。

二ヶ月後、さやはそのツールを解約した。

(やっぱり、私には無理なのかな)

そんな夜が、続いた。

* * *
V バーとの出会い

七月のある夜、アフターが終わったのが午前一時だった。

お客様をタクシーに乗せて、さやは一人、路上に立った。空気が、少しだけ涼しかった。夏の夜の、潮の匂いがした。

(一人の時間が欲しい)

自分のアパートに帰るには、まだ気持ちの整理がつかなかった。かといって、このままどこかの居酒屋に入る気にもなれなかった。お酒は、もう十分飲んだ。

商店街をぶらぶら歩いていると、一本裏の路地に、淡い光が見えた。

小さな看板。「Bar Terrace」。

なんとなく、引き寄せられた。

* * *

ドアを開けると、カウンターが六席だけの小さな空間だった。落ち着いた照明、クラシックジャズ、静かな空気。

カウンターの中に、一人の女性がいた。三十代半ばくらいだろうか。黒いシャツに、清潔感のあるエプロン。切れ長の目が、さやを見て、少し細くなった。

🍸
先生
いらっしゃいませ。どうぞ、お好きな席に

さやはカウンターの端に座った。

🍸
先生
ため息なんてついて、お疲れ様です。何になさいます?

自分がため息をついていたことに、さやは気づいていなかった。

🌙
さや
あ……えと、薄めのハイボールで

女性は少し間を置いた。

🍸
先生
お仕事で飲んでらっしゃるのに、プライベートでまで無理して飲まなくていいんですよ。ソフトドリンクにします?

さやは目を丸くした。なぜわかったのか。

🌙
さや
……じゃあ、ジンジャエールで

グラスに氷を入れる音が、静かな店内に響いた。さやは携帯を開いた。いつもの癖で、副業関連のサイトをスクロールし始めた。

🍸
先生
お待たせしました

グラスが置かれた。ジンジャエール、大ぶりのグラスに、ミントの葉が添えてあった。

🌙
さや
……お姉さん、ここの店長さん?

思わず、聞いた。

🍸
先生
いえ、私の店です
🌙
さや
あ、オーナーさんなんですね、失礼しました。いつオープンしたんですか?
🍸
先生
十年前です
🌙
さや
結構長いんですね。すごい
🍸
先生
すごくないですよ。こじんまり、ぼちぼちやってます

謙遜でも、自慢でもない、淡々とした口調だった。

🌙
さや
どうして独立しようと思ったんですか?

女性は少し考えてから、言った。

🍸
先生
自分の城が持ちたくて。あと、人に使われるの、向いてなくて

さやは、その言葉をしばらく頭の中で転がした。

(そんなもん? そんな熱量で、できるんだ?)

もっと大きな夢があって、熱い志があって、そういうものが必要だと思っていた。「自分の城が持ちたい」という、それだけの理由で人は独立できるのか。

この夜は、それ以上話が続かなかった。席を立とうとしたとき、扉が開いて、スーツ姿の男性客が入ってきた。常連らしく、カウンターに慣れた様子で座った。

👔
常連客
先生、今夜も来ちゃいました

男性が、カウンターの中の女性に言った。さやは、少し驚いた。先生?

女性は苦笑いしながら、「いらっしゃいませ、またですか」と返した。

🌙
さや
先生って呼ばれてるんですか?

男性が振り返って、楽しそうに言った。

👔
常連客
そうなんですよ。だってこの人、色々教えてくれるじゃないですか。色々知ってるし。だから先生

女性は少し困ったような顔をしながら、でも否定もしなかった。

さやは、小さく笑った。三十分ほどで、席を立った。

🍸
先生
またどうぞ

女性の声が、背中に届いた。

外に出て、さやは少しだけ、気持ちが軽くなっていることに気づいた。なぜかはわからなかった。ただ、良いお店を見つけた、という感覚があった。先生、か。なんとなく、しっくりくる呼び方だと思った。

* * *
VI 宝の持ち腐れ

それから二週間後のことだった。

その夜、常連の桐山が「アフター行こう」と言い、さやは断れなかった。気分が乗らなかったが、仕事だった。

向かったのは、あのバーだった。偶然だったのか、それとも、さやが無意識に誘導したのか。

🍸
先生
いらっしゃいませ

カウンターの中の先生が、さやと目が合って、少し微笑んだ。

桐山はウイスキーを頼んで、上機嫌で喋り続けた。仕事の話、ゴルフの話、そして、いつもの話になった。

👔
桐山(常連客)
さやちゃんって、本当にかわいいよね
🌙
さや
ありがとうございます
👔
桐山(常連客)
俺のこと、どう思ってる?
🌙
さや
大切なお客様ですよ
👔
桐山(常連客)
そういうこと言ってるんじゃなくてさ

三杯目に入ったあたりから、桐山の言葉が変わった。肩に手を置いてきた。

👔
桐山(常連客)
なあ、俺のこと、もう少しだけ特別扱いしてよ。ちゃんとするから
(またか)

笑顔を保ちながら、さやの中で何かが疲弊していった。

そのとき、カウンターの中から声がした。

🍸
先生
お客様、お時間の方はよろしいですか?ラストオーダーの時間ですので

時計を見ると、閉店まで一時間以上あった。

桐山が少し不服そうな顔をしたが、先生はにこやかに、でもきっぱりと会計を進めた。タクシーを呼んで、桐山を送り出した。

🍸
先生
お気をつけて

扉が閉まった。

静かになった店内で、さやはカウンターに肘をついた。

🌙
さや
ありがとう

声が、ほんの少し、震えた。

気づいたら、頬を涙が伝っていた。自分でも、驚いた。こんなことで泣くつもりじゃなかった。でも、止まらなかった。

先生は何も言わずに、お水と、小さく折りたたんだティッシュをそっと置いた。

しばらくして、さやは話し始めた。止まらなかった。夜の仕事のこと、莉子のこと、体を壊したこと、転売で失敗したこと、中島の申し出のこと、もう若くないこと、でもやめられないこと。

先生は、ただ聞いていた。相槌を打ちながら、グラスを磨きながら。

しばらくして、静かに言った。

🍸
先生
つまり、何か稼ぐ手段を見つけて、夜の仕事を辞めたいのに、何をすればいいかわからない?

さやは頷いた。

🍸
先生
自分にはスキルがないから?

また頷いた。先生は、少しだけ首を傾けた。

🍸
先生
それは、宝の持ち腐れですね

「スキルがない」と言う人に、私は十年間バーで出会い続けてきました。でも、スキルがない人に会ったことは、ほとんどありません。ほぼ全員が、「自分にとっての当たり前」をスキルだと認識していないだけです。

水商売で働いてきた人が持つ「初対面の人と三十分で打ち解ける力」「相手の気分を読む力」「場の空気を変える力」は、ビジネスの世界では高度なコミュニケーションスキルです。問題は能力の有無ではなく、気づきの有無です。

VII カフェの棚卸し

翌日、午前十一時。

さやは、待ち合わせのカフェに向かった。昨夜、先生に言われた。

🍸
先生
明日のお昼、少し時間ありますか?莉子ちゃんが幼稚園の時間に。一時間くらい

なぜ行こうと思ったのか、自分でもよくわからなかった。ただ、断る理由が見つからなかった。

カフェに入ると、先生はすでにいた。昨夜とは違い、私服姿だった。シンプルな白いシャツ。

🍸
先生
おはようございます。さや……さん、でしたよね
🌙
さや
はい。あの、先生って呼んでいいですか
🍸
先生
どうぞ、好きに呼んでください
* * *

ランチを食べながら、いろんな話をした。先生は、二十歳で起業したこと、通訳の仕事をしていたこと、海外を転々としていたこと、十年前にバーを開いたことを、淡々と話した。

さやは、水商売に入ったきっかけを話した。元夫のこと、離婚のこと、莉子が生まれた直後の記憶を。

不思議と話しやすかった。先生が、何も評価しないからだと思った。驚かない。引かない。ただ聞く。

デザートが来たころ、先生が携帯を取り出した。

🍸
先生
少し、質問していいですか。仕事でどんなことをしてきましたか。水商売以外でも、バイトでも、なんでも
🌙
さや
え……高校の時、コンビニとファミレスと、あと塾の受付と
🍸
先生
塾の受付、何年くらいですか?
🌙
さや
二年くらい。でも水商売に入る前だから、もう十年以上前で

先生は何かを入力しながら、次の質問をした。

🍸
先生
今のお仕事で、特に得意なことは何ですか?初対面のお客様との会話、場の盛り上げ方、お客様の好みを覚えること……どれが一番得意ですか?
🌙
さや
……初対面、かな。なんか、最初の五分くらいで、どういう話題が好きか、どういうペースで話すか、なんとなくわかるので
🍸
先生
それは、どうやって判断するんですか?
🌙
さや
どうやって……声のトーンとか、最初に言った言葉のテンポとか、あと手の動かし方とか

先生は、静かに入力し続けた。三十分ほど、質疑応答が続いた。さやは、聞かれながら気づいた。自分がこれほど細かいことを言語化できることに。

🍸
先生
こんなのどうですか

携帯の画面が、さやの方に向けられた。そこには、さやの話した内容が、整理されて並んでいた。「初対面力コーチング」「オンラインでの人見知り解消セッション」「接客・接遇のマンツーマン指導」。

さやは、眉をひそめた。

🌙
さや
……こんなので、どうやって稼ぐの?
🍸
先生
初対面の人と話すのが苦手な人は、そのスキルに憧れます。日本の成人の、かなりの割合が、自分を人見知りだと思っています。その人たちが、「五分で相手の好みを読む方法」を教えてもらえるとしたら、お金を払いますか?

さやは、少し考えた。

🌙
さや
……払うかも
🍸
先生
でしょう。あなたにとっては当たり前のことが、他の人には難しいんです
🌙
さや
まぁ、それが仕事だから
🍸
先生
そうです。仕事でやってきたことは、全部スキルです
* * *
VIII やっていける、という自信

コーヒーカップを置いて、先生は少しだけ遠くを見るような目をした。

🍸
先生
私ね、十年前、バーを始めるとき、高尚な思いとか、目標とか、なかったんですよ。こういうバーを作りたいとか、社会に貢献したいとか、そういうことを考えてたわけじゃない

さやは、黙って聞いた。

🍸
先生
ただ……お店をやれば、やっていけるっていう自信だけはあった
🌙
さや
……やっていけるっていう自信

さやは、その言葉を、口の中で繰り返した。

🍸
先生
大きな夢じゃなくていい。人に話せるような志がなくてもいい。ただ、自分の力でやっていける、という感覚があれば、それで十分だと、私は思ってます

窓の外、秋の光が斜めに差し込んでいた。

さやは、しばらく何も言わなかった。

十年以上、夜の仕事をしてきた。悪い仕事だとは思っていない。でも、ずっと「これしかない」と思っていた。他には何もできない、と。

でも、今、目の前にいるこの人は、「自信だけはあった」と言った。

さやにも、あるのかもしれない。初対面の人の心を開く力。場の空気を読む力。相手の話を引き出す力。莉子のために働き続けてきた力。何度転んでも、また起き上がってきた力。

それは、スキルと呼んでいいのかもしれない。

🌙
さや
……私、まだ何もわからないけど。なんか、少しだけ、気持ちが変わった気がする

先生は、小さく微笑んだ。

🍸
先生
それで十分ですよ、最初は
* * *

カフェを出ると、午後の陽が眩しかった。

幼稚園のお迎えまで、あと二時間ある。

さやは、歩きながら、携帯を開いた。いつもの癖で、副業サイトを検索しようとして、やめた。代わりに、ノートアプリを開いた。

「得意なこと」

そう打ってから、少し考えて、書き始めた。初対面の人の緊張を、五分でほぐせる。相手の話したいことを、引き出せる。場の空気が重くなったとき、変えられる。

書きながら、さやは思った。これは、自分の話だ。誰かに言ってもらうまで、気づかなかった。でも、確かに自分がやってきたことだ。

(やっていけるっていう自信)

先生の言葉が、頭の中で繰り返された。まだ、何も変わっていない。夜の仕事は続いている。莉子は今日も幼稚園にいる。お金の不安は、消えていない。

でも、何かが、少しだけ違って見え始めていた。

さやは、歩き続けた。午後の光の中を。

NEXT STEP

あなたの「宝」も、まだ眠っているかもしれない。

さやと同じように、「自分には何もない」と思っている人ほど、
話を聞くと必ず種が見つかります。

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