【経営者の生きざま No.98】ダラ・コスロシャヒ──難民の少年がUberを再建した「外来者の目」

この人物を取り上げる理由
2017年、Uberは危機の極にあった。創業者トラビス・カラニックが辞任し、社内ハラスメント問題・規制当局との対立・競合他社の追い上げが重なり、世界最大のライドシェア企業は「炎上する組織」と呼ばれていた。そこへ舵取り役として名乗りを上げたのが、イラン出身のダラ・コスロシャヒだ。
彼の来歴は平坦ではない。イラン革命を機に9歳で米国へ亡命し、家族は資産をほぼ失った。しかし「外来者だからこそ見える景色がある」という信念で、Expediaを世界最大のオンライン旅行会社へ育て上げ、Uberでは文化改革と収益改善を同時に成し遂げた。
移民・難民という出自、畑違いの業界への転身、危機的状況からの再建。このキャリアのすべてが、副業で新しい挑戦をする人間に響くメッセージを持つ。「今いる環境が不利でも、それは強みになりうる」という生き証人だ。
── ダラ・コスロシャヒ
人生の軌跡
イランのテヘランで生まれる。裕福な実業家一家の子として育つ。しかし1978〜79年のイラン革命が一家の運命を一変させる。
革命を逃れ、9歳で家族とともに米国へ亡命。英語もわからない環境に放り込まれ、ニューヨーク州で幼少期を過ごす。家族は資産の大半を失い、ゼロからのスタートを余儀なくされる。
ブラウン大学にて電気工学・コンピュータサイエンスを専攻し卒業。その後、投資銀行アレン・アンド・カンパニーにキャリアをスタートさせる。
Expediaの最高財務責任者(CFO)に就任。その後2011年にCEOへ昇格。在任中に売上を約4倍に伸ばし、Orbitz・HomeAway など複数のM&Aを主導。Expediaをグローバルな旅行プラットフォームに育て上げる。
スキャンダル続きのUberへCEOとして就任。「文化を変える」と宣言し、ハラスメント撲滅・ドライバー待遇改善・規制当局との対話路線へ大転換。就任後1年で組織の信頼回復に着手する。
Uberをニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場(IPO)。時価総額約820億ドルでの上場を実現。その後もUber Eatsの急成長を牽引し、2021年には同社初の通期黒字化を達成する。
思考法①:「外来者の目」を武器にする
コスロシャヒがUberへ赴任したとき、彼は旅行業界のプロであり、ライドシェアの現場を知らなかった。批評家は「業界外の人間がUberを経営できるのか」と懐疑的だった。しかし彼はこの「外来者性」を逆手に取った。
業界の慣習に染まっていないからこそ、「なぜこのルールがあるのか」を問い直せる。既存の問題を「当たり前」と受け入れず、ゼロベースで見直す。彼はUberの攻撃的な企業文化を「なぜこうなったのか」から問い、根本から変えていった。
「知らないこと」は弱みではなく、鋭い問いを生む資産だ
ある分野に詳しくないからこそ、業界の常識を疑える。コスロシャヒはUberに入社した直後、ドライバー・乗客・規制当局それぞれへのヒアリングを徹底し、内部の人間が見落としていた課題を次々と発見した。副業においても、本業で培った「別業界の視点」は大きな差別化要因になる。本業での知識や経験が、副業の市場では「珍しい専門性」として輝くことがある。
- ▶ 本業の業界知識を副業ジャンルに持ち込み、「外から来た専門家」として差別化する
- ▶ 副業を始める際に「この業界の常識はなぜこうなのか?」を3つ書き出してみる
- ▶ 初心者だからこそ感じた違和感をブログやSNSで発信し、同じ疑問を持つ層を集客する
思考法②:文化こそが最大のプロダクトだ
コスロシャヒがUber就任後にまず着手したのは、テクノロジーでも財務でもなく「文化の再定義」だった。前CEOカラニック時代の14の文化規範を廃止し、新たに8つのシンプルな価値観(”Do the right thing”など)に刷新。「攻撃性を美徳とする文化」から「誠実さと透明性を重んじる文化」へ。
彼はたびたびこう語っている。「製品は模倣できる。しかし文化だけは他社がコピーできない。」組織の価値観・行動規範・意思決定の基準こそが、長期的な競争優位の源泉だという確信がある。
個人ブランドの「文化」=あなたの発信姿勢・対応・価値観の一貫性
副業・個人ビジネスにおける「文化」とは、あなたがどんな姿勢で顧客に接し、どんな言葉を使い、何を大切にするかという一貫したブランド人格のことだ。スキルは後から習得できる。しかし「この人に頼みたい」という信頼感は、一貫した行動の積み重ねからしか生まれない。コスロシャヒがUberの文化を変えることで市場の信頼を取り戻したように、個人も発信・対応・姿勢を磨くことで長期的なリピーターを獲得できる。
- ▶ 副業の「自分ルール」を3つ決める(例:返信は24時間以内・批判には誠実に答える・値下げより価値向上を優先する)
- ▶ SNS・ブログ・メルマガの発信トーンを統一し、「この人らしさ」を読者に刻み込む
- ▶ クレームや否定的な声に対しても誠実に向き合う姿勢を公開し、信頼構築のチャンスに変える
思考法③:「間違いを認める速さ」が信頼を生む
2019年のUber IPOは期待を大きく下回る出足となり、株価は初日から下落した。多くのCEOはこうした局面で言い訳や楽観論を並べる。しかしコスロシャヒは社員へのメールで率直にこう書いた。「うまくいかなかった。私には失望がある。しかし我々が長期的に価値を証明すると信じている。」
彼のコミュニケーションの特徴は「透明性の高い自己開示」だ。失敗を隠さず、感情も含めて開示することで、社員・投資家・パートナー全員との信頼関係を維持してきた。「最高のリーダーは間違いを認め、学び、変わることを恐れない」というのが彼の信念の核心にある。
失敗の開示スピードが、個人ブランドの厚みを決める
副業・個人ビジネスでは失敗を隠したくなる心理が働く。しかし、失敗体験をいち早く言語化して発信することは、最も強力なコンテンツになりうる。「うまくいかなかった施策と、そこから学んだこと」を発信する人間には、圧倒的なリアリティと親近感が生まれる。読者は「完璧な成功者の話」より「失敗と再起の物語」に心を動かされる。誤りを認める速さと深さが、長期的なファンと信頼を生み出す。
- ▶ 副業で失敗した施策・反省点をブログやSNSで「失敗レポート」として発信し、信頼と検索流入を同時に獲得する
- ▶ クライアントへのミスは隠さず即座に報告・代替案提示をする習慣をつける(これが口コミの源泉になる)
- ▶ 月次で「うまくいかなかったこと」を1つ振り返り、発信ネタ化するルーティンを作る
難民として全てを失った9歳の少年は、「外来者の目」という最強の武器を手に入れた。
間違いを認め、文化を変え、組織を再生する。その姿勢は「逆境は資産である」という証明だ。
あなたが今いる「不利な立場」は、見方を変えれば誰も持ち得ない視点の宝庫かもしれない。
あなたへの問いかけ
- ▶ あなたが「経験不足・場違い」と感じている副業分野で、逆に「外来者だから見える景色」は何かあるだろうか?
- ▶ あなたの副業における「発信の文化・自分ルール」は言語化されているか?一貫したブランド人格は育っているか?
- ▶ 直近1ヶ月で、副業における失敗や反省を誰かにオープンに話した(または発信した)ことはあるか?
次回:シェリル・サンドバーグ




