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副業先生のバー トップへ 副業先生のバー | Bar Fukugyo-Sensei EPISODE 02 | さやの物語

「答えは自分の中にある」

スキルをサービスに変える日。

🌙
さや 30代・シングルマザー・水商売
🍸
先生 バーのオーナー
🌸
莉子 さやの娘・4歳
📖 読了約15分 🏷 シングルマザー・水商売・スキルなし・在宅希望
I ノートの中身

さやはノートを三冊使った。

あの日、カフェで先生と話してから、二週間が経っていた。仕事の合間、昼間の空き時間、莉子が寝たあとの深夜。思いついたことを、片っ端から書いた。

「初対面の人の緊張を、五分でほぐす方法」

「相手が話したいことを、顔色で読む方法」

「場が重くなったときの、立て直し方」

「お客様の記念日を、なんとなく覚えておく方法」

「怒っているお客様を、笑わせるまでの手順」

書けば書くほど、出てきた。止まらなかった。

十年間、夜の仕事で使ってきたことが、全部言葉になっていった。

(これだけあれば、何かできる)

そう思った。確かに、そう思った。

ノートを抱えて、さやはあのバーに向かった。先生に見せたかった。これだけ集めました、と。

II 種だけでは、育たない

バーのドアを開けると、平日の夜で客はまだいなかった。先生が一人、カウンターの中でグラスを拭いていた。

🍸
先生
いらっしゃいませ。あら、ノート持って。
🌙
さや
見てください。あれから、ずっと書いてたんです。こんなにあって。

さやはカウンターにノートを広げた。びっしりと書かれたページを、先生はゆっくり、一枚ずつめくった。

しばらく、沈黙があった。

🌙
さや
どうですか。これだけあれば、何かできますよね。

先生はノートを閉じた。ジンジャエールを一杯作って、さやの前に置いた。

🍸
先生
よく集めましたね。
🌙
さや
ありがとうございます。
🍸
先生
でも、これだけでは、仕事になりません。

さやは、グラスを持つ手が止まった。

🌙
さや
……え?
🍸
先生
種を集めただけです。種は、持っているだけでは育たない。

さやは、ノートを見つめた。二週間、本当に必死で書いた。お店の仕事が終わって、くたくたの体で、莉子が寝てから机に向かって。それが、仕事にならない?

🌙
さや
……どういうことですか。

先生は少し考えてから、カウンターに肘をついた。

🍸
先生
さやさん、私がこのバーを始めるとき、何をしたと思いますか。
🌙
さや
……お店を借りた?
🍸
先生
それは最後の方です。一番最初にしたのは、コンセプトを決めること。

さやは、首を傾けた。

🍸
先生
どんな店にするか。誰に来てほしいか。何を売るか。値段はいくらにするか。全部決めてから、初めて物件を探した。集客のことを考えたのは、もっと後です。
🌙
さや
……順番があるんですね。
🍸
先生
そうです。あなたのノートは、食材の在庫表です。冷蔵庫に食材がたくさんある。でも何を作るか、誰に食べさせるか、いくらで出すか、どこで売るか。それが何も決まっていない。

さやは、少しの間、黙っていた。

🍸
先生
大きく分けると、三つです。サービスを作ること。お店を構えること。お客さんを呼ぶこと。今のさやさんは、その前の段階にいます。
🌙
さや
その前……
🍸
先生
自分が何屋さんなのか、まだ決まっていない。

さやが「スキルがない」と言う人のほとんどは、実はスキルを持っています。問題は、そのスキルが「売れる形」になっていないことです。食材がどれだけ良質でも、料理にならなければお客様には出せません。素材を「商品」にする工程が、副業には必ず必要です。

III 何屋さんになるか

さやはジンジャエールを一口飲んで、ノートを開いた。

🌙
さや
……私、何屋さんになればいいんですか。
🍸
先生
それは私が決めることじゃありません。ただ、ヒントは出せます。

先生は、さやのノートをもう一度開いた。

🍸
先生
これだけ書いてある中で、一番自信があるのはどれですか。

さやは、ページを眺めた。

🌙
さや
……初対面、かな。やっぱり。五分で打ち解けるやつ。
🍸
先生
次に、その力が欲しい人は誰だと思いますか。
🌙
さや
……人見知りの人?
🍸
先生
もっと具体的に。どんな場面で困っている人ですか。

さやは少し考えた。

🌙
さや
就職の面接とか。営業の人とか。あと、初めてのママ友とか。
🍸
先生
そうです。それがお客様の候補です。次に、その中で一番お金を払いそうな人は?
🌙
さや
……営業?
🍸
先生
なぜ?
🌙
さや
結果が数字に出るから。売れれば儲かるから、そのためにお金使う気になる。

先生は、少し目を細めた。

🍸
先生
正しい。

さやは、少し照れた。

🍸
先生
あとは、どんな形でサービスにするか。一回いくらで売るか。それを決めたら、やっと「商品」になります。
🌙
さや
……一回いくらって、どれくらいがいいんですか。
🍸
先生
何時間かけますか。
🌙
さや
一時間くらい?
🍸
先生
じゃあ、あなたが「一時間の自分の価値」をいくらだと思うか、です。

さやは、黙った。

夜の仕事では、一時間の時給は大体決まっていた。でも、これは違う。これは自分が値段を決める。

🌙
さや
……わからないです。
🍸
先生
それが、最初のテーマです。
IV 家での格闘

その夜から、さやの机の上の風景が変わった。

ノートの横に、白紙のルーズリーフが積まれた。

「誰に売るか」

「何を教えるか」

「一回何分か」

「値段はいくらか」

「どこで売るか」

書いては消して、消しては書いた。

営業マンに売る、と決めた。次の日には、でも私は営業の経験がないから説得力がないかも、と思って消した。ママ友に売る、と書いた。でもお金を払うかな、と思って消した。

気づくと、深夜の二時だった。ルーズリーフは、ぐちゃぐちゃだった。

莉子の寝顔を見に行った。小さな胸が、規則正しく上下していた。

(この子のためなら)

いつも、そう思う。それでまた、机に戻った。

* * *

翌々日の夜、お店に出た。

十一時を回ったころ、後輩の美咲が控え室に入ってきた。二十三歳。入店して半年の子だ。メイクを直しながら、ため息をついた。

💬
美咲
さやさん、最近なんか考え事してます?
🌙
さや
え、そう見える?
💬
美咲
なんか、目が違う気がして。

さやは少し笑った。

🌙
さや
副業、考えてて。
💬
美咲
副業ですか。私も考えたことあるんですけど、なんもできないし。結局何もしてないです。

なんもできない。

その言葉が、さやの中で引っかかった。

🌙
さや
美咲ちゃん、なんもできないって、本気で思ってる?
💬
美咲
え、だって本当に何も。資格もないし、特技とかもないし。
🌙
さや
でも美咲ちゃんって、お客さんのこと、ちゃんと覚えてるじゃない。前回飲んだお酒とか、話してた趣味とか。私、あれすごいなっていつも思ってる。

美咲は、きょとんとした顔をした。

💬
美咲
……それ、普通じゃないですか。
🌙
さや
普通じゃないよ。私でもできない子、いっぱい知ってる。
💬
美咲
でも、そんなの仕事になるんですか。
🌙
さや
なるよ。お客様のことを覚えて、気にかけて、また来たいと思わせる力って、どんな仕事でも使える。接客のコンサルでも、SNSの運用でも。

美咲は、まだ半信半疑な顔をしていた。でも、少しだけ表情が柔らかくなっていた。

💬
美咲
さやさん、なんか変わりましたね。前より、なんかこう……はっきりしてる。

さやは、鏡の中の自分を見た。

(そうかな)

わからなかった。でも、美咲に話しながら、気づいたことがあった。

さっき自分がやったこと。美咲の「なんもできない」を聞いた瞬間、自然に種を探していた。あの子が持っているものを、言葉にしていた。

先生が、カフェで自分にやってくれたことを。

(ああ、これか)

これが、自分にできることだ。と、さやは思った。

* * *

三日後の夜、さやはまたバーに行った。

決まらない、と正直に言うつもりだった。でもドアを開けたら、先客が二人いた。先生は接客中で、さやに小さく頷いて、いつものジンジャエールを出してくれた。

さやは端の席で、ノートを開いた。

隣のお客さんの会話が、断片的に聞こえてきた。新しいビジネスの話をしているようだった。熱心に、でも楽しそうに。

(ああいう話、私もいつかできるのかな)

一時間ほどして、客が帰った。先生が、さやの前に来た。

🍸
先生
決まりましたか。
🌙
さや
……全然です。

先生は少し微笑んだ。

🍸
先生
そうですか。
🌙
さや
決めようとするんですけど、これでいいのかってなって。消して、また違うこと書いて。
🍸
先生
それで合ってます。
🌙
さや
合ってる?
🍸
先生
最初は誰でもそうです。ただ、一つだけアドバイスするなら。

先生はグラスを磨きながら、続けた。

🍸
先生
「完璧な答え」を探さなくていいです。「今の自分にできる答え」を決めるだけでいい。後で変えられます。
🌙
さや
……変えていいんですか。
🍸
先生
商品は、育てるものです。最初から完成品じゃなくていい。

さやは、ノートを見つめた。

V 莉子の言葉

それから数日後の週末。

土曜日の朝、さやは朝から机に向かっていた。莉子は居間でアニメを見ていた。

🌸
莉子
ママ、また勉強してるの?
🌙
さや
うん。お仕事の勉強。
🌸
莉子
何のお仕事?

さやは、少し迷った。

🌙
さや
……人の話を聞く練習を、教えるお仕事。
🌸
莉子
ママ、それ得意だよ。

さやは振り返った。

🌙
さや
え?
🌸
莉子
ママ、莉子の話、いつもちゃんと聞いてくれる。お友達のこととか。ちゃんとわかってくれる。

さやは、なにも言えなかった。

四歳の子どもに言われるまで、気づかなかった。毎晩、莉子の話を聞いてきた。幼稚園でどんなことがあったか、誰と遊んだか、何が嫌だったか。莉子が話しやすいように、質問を選んでいた。それが当たり前で、スキルだとは思っていなかった。

🌸
莉子
がんばれ、ママ。

莉子は、またアニメに戻った。

さやは、机に向かって、ルーズリーフに書いた。

「話を聞く力」

「子どもにも伝わる言葉で話す力」

消さなかった。

* * *

その週末、さやの母が莉子を預かりに来た。

💬
さやの母
最近、遅くまで起きてるでしょ。顔色悪い。
🌙
さや
大丈夫、勉強してるだけ。
💬
さやの母
副業? まだやってるの。
🌙
さや
うん。

母は少し黙って、それから言った。

💬
さやの母
あんたは昔から、始めたら最後まで諦めなかったけどね。

さやは顔を上げた。

💬
さやの母
高校のとき、バイト三つ掛け持ちして、全部続けてたでしょ。あの根性、今も変わってないね。

褒めているのか、心配しているのか、よくわからない口調だった。でも、さやには、前者に聞こえた。

莉子が玄関で靴を履きながら、振り返って言った。

🌸
莉子
ママ、今日もがんばってね。
VI また、すぐ行ってしまう

それから二週間ほどが経った。

さやはようやく、一つの答えを出した。

「コミュニケーションが苦手な人向け、初対面力アップの個別セッション。一回六十分。Zoom形式。」

値段は、三千円にした。安いかもしれないとは思った。でも最初は実績を作ることが先、とどこかで読んだ。

ノートに書いて、しばらく眺めた。これでいい気がした。

次の日の夜、バーに行った。先生に見せた。

先生はじっくり読んで、顔を上げた。

🍸
先生
決めましたね。
🌙
さや
はい。これでどうでしょう。次、何をすればいいですか。

先生は、少し間を置いた。

🍸
先生
さやさん。
🌙
さや
はい。
🍸
先生
自分の仕事ですよ。

さやは、きょとんとした。

🌙
さや
……え?
🍸
先生
次に何をするか、私に聞きに来ましたよね。
🌙
さや
……はい。
🍸
先生
それは、私が決めることではありません。

少し、空気が変わった気がした。先生の声は穏やかだったが、有無を言わせない何かがあった。

🍸
先生
私はヒントは出せます。方向性を整理する手伝いはできます。でも、一歩一歩を決めるのは、さやさんです。それがあなたの仕事です。
🌙
さや
……でも、わからなくて。
🍸
先生
わからないから、考えるんです。すぐ答えを聞きに来たら、考える筋肉がつかない。

さやは、何も言えなかった。

先生は、グラスを磨きながら続けた。

🍸
先生
一つだけ言います。商品が決まったなら、次にすることは一つです。それだけ考えて、今夜は帰ってください。

さやは、しばらくジンジャエールを見つめていた。

(次にすることは、一つ)

席を立つとき、先生が言った。

🍸
先生
答えは、ちゃんと自分の中にありますよ。

副業でつまずく人の多くは、「正解を教えてもらおう」とします。でも副業は、正解を教えてもらうものではありません。自分で考えて、試して、修正する。その繰り返しが、やがて「自分だけのやり方」になります。答えは常に、自分の中にあります。

VII お店を構える

さやは、その夜、家に帰ってから考えた。

商品が決まった。次にすること。

(お客さんに届ける場所が必要だ)

先生が言っていた。お店を借りる段階。自分のビジネスで言えば、それはどこだろう。

携帯を開いた。「副業 サービス販売 プラットフォーム」と検索した。

SkillShare、ストアカ、ココナラ。いくつか出てきた。一つずつ開いて、読んだ。深夜まで読んだ。

ストアカは、講座形式が多い。SkillShareは英語が多い。ココナラは、個人のスキルを売れる。

ここにしよう、と思った。

次の日の昼、莉子が幼稚園に行っている間に、アカウントを作った。プロフィールを書いた。サービスの説明を書いた。値段を入力した。出品した。

終わったとき、なんとも言えない気持ちになった。恥ずかしいような、誇らしいような。

携帯の画面に、自分のサービスページが表示されていた。

「コミュニケーションが苦手な方へ。初対面力アップ個別セッション。60分 ¥3,000」

(出した)

莉子が帰ってきたとき、さやは思わず言った。

🌙
さや
莉子、ママ、お店出したよ。
🌸
莉子
ほんとに? すごい!

さやは、笑った。

* * *

一週間後。

注文は、ゼロだった。

プロフィール画像を変えた。説明文を書き直した。値段を二千五百円に下げた。

それでも、ゼロだった。

(何がいけないんだろう)

ページを何度も見返した。悪くないと思う。でも誰も来ない。

またバーに行きたくなった。でも、先生の言葉を思い出した。

(自分で考えなさい、ということだ)

我慢して、家で考えた。なぜ売れないのか。なぜ誰も来ないのか。

夜中に、ふと思った。

(私のページ、誰かに見てもらったことあるかな)

ない、と気づいた。出品して、ただ待っていた。

先生が言っていた。お店を構えることと、集客は別だ、と。

VIII ロードマップという地図

さらに数週間が経った。

さやはまたバーに行った。今度は報告のためではなかった。自分で考えた結果を、確かめるために。

🌙
さや
先生、聞いてください。
🍸
先生
どうぞ。
🌙
さや
出品したんですけど、売れなくて。最初は待ってたんですけど、考えたら、待ってるだけじゃ誰も来ないって気づいて。

先生は頷いた。

🌙
さや
だから次は、知ってもらう必要があるんだと思って。SNSで発信するとか、そういうことですよね。
🍸
先生
そうです。

さやは、少し安心した。

🍸
先生
自分で気づきましたね。
🌙
さや
時間かかりましたけど。
🍸
先生
いいんです。自分で辿り着いた答えは、忘れません。

先生は、カウンターに一枚の紙を置いた。

🍸
先生
ロードマップという言葉、知ってますか。
🌙
さや
地図みたいなもの?
🍸
先生
そうです。目的地まで、どの道を通って行くか。副業も同じで、ゴールから逆算して、今月・来月・その次に何をするか、決めておく。

さやは、紙を受け取った。先生が手書きで書いたらしい、簡単な図だった。

「商品決定 → 出品 → 発信開始 → 初受注 → 改善 → 価格改定」

縦に並んだ矢印。それぞれに、「何をするか」が一行で書いてあった。

🍸
先生
さやさんは今、「出品」が終わって「発信開始」の手前にいます。
🌙
さや
……そうか。まだ序盤なんだ。
🍸
先生
始まったばかりです。あと、一つだけ。

先生は、さやの目を見て言った。

🍸
先生
ロードマップは、地図です。地図は、目的地を決めないと引けない。さやさんの目的地は何ですか。
🌙
さや
……夜の仕事を、やめること。
🍸
先生
いつまでに?

さやは、少し考えた。

🌙
さや
……一年以内に。莉子が小学校に上がる前に。

先生は、静かに頷いた。

🍸
先生
それが、あなたのゴールです。そこから逆算して、毎月いくら必要で、そのために毎月何件受注すればいいか。それが決まれば、何をすべきかが見えてきます。

さやは、手元の紙を見つめた。

一年以内。莉子が小学校に上がる前。

(できるかな)

わからなかった。でも、今夜は、一か月前より、ずっと具体的に考えられている自分がいた。

ノート三冊分の「種」は、少しずつ、形になってきていた。

一年後を目標に設定したさやは、この夜からロードマップを手帳に書き始めます。副業には「始める」より「続ける」ことの方が難しい。でも、ゴールと道筋が見えていれば、前に進み続けられます。

NEXT STEP

さやはいよいよ、発信を始めます。

ゴールと道筋が決まったら、次は行動。
あなたも、自分のロードマップを一緒に作りませんか。

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