【経営者の生きざま No.47】王興(Wang Xing)── 失敗を資産に変えた中国テック界の連続起業家

この人物を取り上げる理由
王興(ワン・シン)は、中国最大のフードデリバリー・生活サービスプラットフォーム「美団(Meituan)」の創業者兼CEOだ。
しかし彼の本当の凄みは、その「一度の成功」ではない。
SNSのMySpace中国版を模倣した「校内網」、Twitterを模倣した「飯否(ファンフォウ)」と、次々とサービスを立ち上げては規制や競争に押しつぶされながら、それでも再起し続けた「連続起業家」としての生きざまにある。
副業や個人ビジネスで「一度失敗したら終わり」と思っている人は多い。
だが王興は言う。「上限のない探索を続けよ」と。
失敗をデータとして積み上げ、撤退と再挑戦を繰り返した末に、時価総額10兆円超の企業を生み出した。
その思考法は、スモールビジネスや副業設計においても、極めて実践的な示唆を与えてくれる。
── 王興(ワン・シン)
人生の軌跡
中国福建省龍岩市に生まれる。幼少期から数学・コンピュータサイエンスへの強い関心を示す。清華大学電子工学系に進学し、その後アメリカ・デラウェア大学で修士課程を履修。シリコンバレーのIT文化に直接触れる。
米国留学を中退し帰国。中国初の大学生向けSNS「多多友」を立ち上げるも、資金調達に失敗し閉鎖。この最初の挫折が、以後の「学習型起業」の原点となる。
大学生向けSNS「校内網(シャオネイワン)」を創業。Facebookの中国版とも言われた同サービスは急成長するが、資金難から競合他社に売却を余儀なくされる。後に「人人網」として上場する同サービスを手放すことを、王興は「最大の後悔のひとつ」と語っている。
Twitterを模した中国版マイクロブログ「飯否(ファンフォウ)」を創業。一時は中国最大のマイクロブログに成長するが、2009年の新疆ウイグル自治区騒乱に伴う政府の一斉規制により突然サービス停止を命じられる。再起不能とも思われた3度目の挫折。
共同購入クーポンサービス「美団網(メイトゥアン)」を創業。Grouponの中国版として参入したこの市場は、瞬く間に5,000社超が参入する「千団大戦」と呼ばれる消耗戦に突入。王興はデータと実行力でライバルを次々と退け、最終的に業界を制する。
美団が香港証券取引所に上場。時価総額は一時600億ドル(約9兆円)を超え、中国第3位のインターネット企業に。フードデリバリーを核に、ホテル予約・映画チケット・旅行・タクシー配車まで展開する「スーパーアプリ」へと進化を遂げる。
思考法①:失敗は「損失」ではなく「学習資産」である
王興は20代のうちに3つの事業を立ち上げ、3つすべてを「うまくいかない形」で終えた。
普通の起業家なら心が折れる場面だ。しかし彼は各失敗を「なぜ失敗したか」の解析に使い、次の事業設計に組み込んだ。
校内網の売却では「資金調達の遅れが致命的」と学んだ。飯否の強制停止では「中国規制リスクをどう読むか」を体に刻んだ。
この「失敗を資産に変換する思考」があったからこそ、美団での意思決定は異様に速く、かつ精度が高かった。
「失敗ログ」を残せ。それがあなたの最大の差別化資産になる。
王興は事業の失敗を詳細に記録・分析し、次の意思決定に活用した。副業においても、「なぜ売れなかったか」「なぜ集客できなかったか」を記録して言語化する習慣が、次のチャレンジの質を劇的に高める。うまくいかなかった経験こそ、同じ市場で再挑戦するときの「参入障壁」になり得る。競合は同じ失敗を経験していないからだ。
- ▶ 副業で試したことの結果を毎回「失敗ノート」に記録し、仮説と結果のズレを分析する習慣をつける
- ▶ 「うまくいかなかった理由」を3つ以上書き出し、次の施策の「やらないこと」リストに変換する
- ▶ 撤退した副業テーマでも「自分が学んだこと」を棚卸しし、別の形で再利用できないか検討する
思考法②:「上限のない探索(Infinity Mindset)」で市場を読む
王興は「美団は食事のデリバリー会社ではない」と繰り返し語ってきた。
彼の視点では、美団は「人々の生活をより良くするあらゆるサービスの入り口」だ。
フードデリバリーから始まり、ホテル・映画・タクシー・バイクシェアへと拡大したのは「計画」ではなく「探索」の結果だった。
この発想を王興は「上限を設定しない探索思考」と呼ぶ。最初から事業の「天井」を決めないことで、想定外の成長経路が見えてくる。
彼は著名な長期投資家チャーリー・マンガーの多読家でもあり、異分野の知識を組み合わせて市場の本質を見抜く習慣を持っていたことでも知られる。
「自分は何屋か」の定義を狭めるな。最初の商品はあくまで「入り口」にすぎない。
副業を始める多くの人は「ブログで稼ぐ人」「コーチングをする人」と最初のラベルに縛られる。しかし王興的に言えば、それは「入り口のサービス」にすぎない。そこで得た信頼・顧客・スキルを使って、どんな価値を次に提供できるかを常に探索し続けることが、副業を本業に変える力になる。「今やっていることの延長線に何があるか」を半年に一度は問い直すべきだ。
- ▶ 現在の副業で生まれた「顧客との接点」を起点に、次に提供できるサービスや商品を書き出してみる
- ▶ 自分の肩書きを「〇〇専門家」と固定せず、「〇〇に困っている人の課題を解決する人」と広く定義し直す
- ▶ 月1冊、自分の副業ジャンルとは無関係な本を読み、異業種の成功法則を自分のビジネスに転用する習慣をつける
思考法③:「長期で考え、短期で動く」実行哲学
王興は「美団の競争相手はアリババでもテンセントでもない。我々の敵は自分たちの実行力の欠如だ」と語ったことがある。
彼の経営の根幹にあるのは、「長期ビジョンは揺るがさないが、短期の実行は徹底的に速く行う」という二重思考だ。
「千団大戦」と呼ばれた5,000社超が乱立する共同購入市場で美団が生き残れたのは、単に資金力ではなく「現場への権限委譲」と「データに基づく即断即決」によるものだった。
王興自身が深夜まで現場データを見て、翌朝には施策を打つ。このスピードが最大の武器だった。
「3年後の目標」を持ちながら、「今週の行動」に全力を注げ。
副業で成果が出ない人の多くは、長期目標だけ掲げて「今週何をすべきか」が曖昧なままだ。あるいは逆に、目先の作業に追われて方向性を見失う。王興は「長期で考え、短期で動く」という二重思考を体現した。3年後の自分のビジネス像を描きながら、今週・今日の行動を決定する習慣が、副業を着実に育てる最短経路になる。小さな実行を積み上げることが、最終的に大きな差を生む。
- ▶ 「3年後に副業でどんな状態になっていたいか」を1枚の紙に書き、そこから逆算して今月・今週のタスクを設定する
- ▶ 週次で副業の進捗を数値で確認し(アクセス数・問い合わせ数・売上など)、翌週の行動をデータ起点で決める習慣をつける
- ▶ 「完璧になってから動く」ではなく「60点でも出して反応を見る」ことを意識し、改善サイクルの速度を上げる
── 王興(ワン・シン)
王興の本質は「諦めないこと」ではなく、「諦め方を知ること」にある。
撤退すべき時に撤退し、しかし学びを手放さずに次の挑戦へと転用する。
その反復が、中国テック史上屈指の「連続起業家」を生んだ。失敗を恐れず、しかし失敗から必ず学ぶ──それが王興という経営者の核心だ。
あなたへの問いかけ
- ▶ あなたはこれまでの副業や仕事の「失敗」を、次に活かせるかたちで記録・言語化しているか?
- ▶ 今やっている副業の「天井」を自分で勝手に決めていないか?そこから先に広がる可能性を探索しているか?
- ▶ 3年後のビジネス像を描きながら、「今週すべきこと」を具体的に決めて動けているか?
次回:柳井正





