【経営者の生きざま No.42】ポニー・マー──13億人の日常を作った「静かな帝王」の思考法

この人物を取り上げる理由
馬化騰(マー・ホアタン)、英語名ポニー・マー。
テンセント(騰訊控股)の共同創業者であり、現CEOである。
WeChat(微信)・QQ・テンセントゲームズを擁し、2024年時点での時価総額は約4,000億ドル規模。中国テック界で「孤高の帝王」と称される人物だ。
彼が副業・個人ビジネスの文脈で注目すべきなのは、その出発点がきわめて地味だったことにある。
深センの中小ISP向けにポケベル用ソフトウェアを下請け開発する、いわば「副業的な小仕事」からテンセントは始まった。
派手なビジョンを語るより先に、目の前のユーザーに使われるものを黙々と作り続けた。
その姿勢こそ、個人でビジネスを立ち上げようとするすべての人に響く本質だ。
── ポニー・マー
人生の軌跡
広東省汕頭市に生まれる。幼少期に深センへ移住。天文学に夢中な少年で、深セン大学にて計算機科学を専攻。プログラミングに没頭し、独学でソフトウェア開発の基礎を固める。
深セン大学卒業後、中国モーションテレコム(润迅通信)にソフトウェアエンジニアとして入社。ポケベル向けシステムの開発に従事する。給料は安く地味な仕事だったが、ユーザー視点でのシステム設計を徹底的に学んだ時期。
張志東(トニー・チャン)ら4名と共に深センでテンセントを創業。資本金わずか50万元(約700万円相当)。当初はISPやポータル向けの受託ソフト開発で糊口をしのぐ。副業的スモールスタートの典型。
IMソフト「OICQ」(後のQQ)をリリース。ICQを参考に中国市場向けに徹底ローカライズ。会社売却も検討するほど経営難に陥るが、ユーザー数増加に信念を持ち継続。2001年には登録ユーザー1億人を突破。
香港証券取引所に上場。公募価格3.70香港ドルに対し初日から急騰。調達資金で事業を多角化。オンラインゲーム・電子商取引・決済へと展開し、中国最大のインターネット企業へと成長する基盤を固める。
WeChat(微信)をリリース。スマートフォン時代を見越した社内スタートアップ的プロジェクトとして誕生。2023年時点で月間アクティブユーザー13億人超。決済・ミニプログラム・ビジネスチャットを内包する「スーパーアプリ」として世界に影響を与え続ける。
思考法①:「自分が最初のユーザーになる」プロダクト哲学
ポニー・マーは「製品経理(プロダクトマネージャー)思考」の体現者と呼ばれる。
彼はCEOでありながら、WeChat・QQの新機能リリースのたびに自らヘビーユーザーとして使い込み、細部のUXに直接フィードバックを出し続けた。
「ユーザーが感じる不満を、自分も同じ皮膚感覚で感じなければ、本当の改善はできない」という信念が根底にある。
これは個人が副業でサービスや商品を作るときも、まったく同じ原則が機能する。
「自分が一番のユーザー」であることが、最強のリサーチだ
ポニー・マーはWeChatの初期、競合アプリを徹底的に自分で使い比べた。「なぜこの操作が一手間多いのか」「なぜこの通知は煩わしいのか」——その問いを全て自分ごとで感じることで、チームへの指示が具体的かつ的確になった。外部のマーケット調査より先に、自分の皮膚感覚をデータにすること。これがテンセントのプロダクトの強さの源泉である。大企業のアンケートではなく、創業者自身の「使っていて嫌だ」という感情が、製品を進化させ続けた。
- ▶ 自分が「理想の顧客」として自分のサービスを体験し、不満リストを週1で書き出す習慣を持つ
- ▶ 副業のLPや資料を、初見の他人として読み直し「分かりにくい箇所」を自己レビューする
- ▶ 競合サービスを実際に課金して体験し、「自分ならここをこう変える」を言語化する
思考法②:「模倣から始めて、超える」ローカライズ戦略
テンセントは創業期、ICQ・MSNメッセンジャー・PayPalなど欧米の成功サービスを徹底研究した。
「コピーキャット」と批判されることもあったが、ポニー・マーの真意は模倣による時間節約ではなかった。
「優れたモデルを中国市場の文脈・ユーザー行動・インフラに合わせて再設計する」ことで、オリジナルを超える体験を生み出すことが目標だった。
WeChatはWhatsAppの後発だったが、ミニプログラム・WeChat Pay・モーメンツの融合によって独自のエコシステムを確立し、今や世界中のアプリ設計の参照点となっている。
ゼロから発明しなくていい。「あなたの文脈」で再構築せよ
ポニー・マーは「良いものを研究し、自分の市場に最適化する」ことを恐れなかった。これは盲目的な模倣ではなく、「なぜこれが機能するのか」という構造理解の上に成り立つ。副業においても、すでに成功しているビジネスモデルを「自分のターゲット・自分の強み・自分のコミュニティ」に合わせて再設計することは、最も効率的な起点となる。独創性は最初から必要ない。深く理解して再構築することが、本当の価値創造につながる。
- ▶ 稼いでいる先行副業者のビジネス構造を分解し、「自分ならどう再設計するか」を紙に書く
- ▶ 他業界で成功しているマネタイズ手法を、自分のジャンルに移植するアイデア出しを月1回行う
- ▶ 「自分だけの文脈=職歴・地域・コミュニティ」を組み合わせることで、模倣を超えたオリジナルを作る
思考法③:「持続的な小さな改善」がプラットフォームを支配する
ポニー・マーは大言壮語を嫌うことで知られる。
アリババの馬雲(ジャック・マー)が雄弁なビジョナリーとして対比されるのに対し、ポニー・マーは「語らず、作る」男だ。
テンセントの強さは一度の革命的発明ではなく、QQもWeChatも毎月・毎週単位でUIを改善し、小さな不満を潰し続けたことにある。
「大きな飛躍より、毎日1%の改善」——この哲学が、13億人の日常に不可欠なプラットフォームを生んだ。
副業においても、派手なリニューアルより地道な改善の積み重ねこそが、長期的な信頼と収益を作る。
「静かな改善」を続けた者だけが、プラットフォームになれる
WeChatのバージョン履歴を見ると、毎回のアップデートに数十件の小さな改善が並ぶ。通知の1タップ削減、文字サイズの微調整、検索精度の向上——。これらは単体では地味だが、積み重なると「このアプリは自分のことを分かってくれている」という圧倒的な信頼感になる。ポニー・マーは「完璧なものを一度出すより、良いものを継続的に出し続けよ」と繰り返している。副業も同様で、最初の完成度より、毎月お客さんの声を反映して少しずつ良くなっていくサービスの方が、長く選ばれ続ける。
- ▶ 副業サービスに「月1改善ログ」を設ける。お客さんの声・数字・自己観察を記録し、小さく反映し続ける
- ▶ 完璧なコンテンツを月1本より、80点のコンテンツを週1本出して改善する方が検索・信頼ともに積み上がる
- ▶ 「先月より何が良くなったか」を顧客に伝えるアップデート報告を習慣化し、継続利用率を高める
── ポニー・マー
ポニー・マーは「語る起業家」ではなく「作り続ける起業家」だ。
自分が最初のユーザーとなり、良いモデルを自分の文脈で再構築し、毎日小さく改善し続ける。
その静かな執念こそが、13億人の日常に入り込む帝国を生んだ。どんなに小さな副業も、この三原則で育てることができる。
あなたへの問いかけ
- ▶ あなたは自分の副業サービス・コンテンツを、最近「お客さんの立場」で体験してみたことがあるか?
- ▶ 「ゼロから独創的なものを作らなければ」というプレッシャーが、あなたの副業スタートを遅らせていないか?
- ▶ 先月と比べて、あなたの副業は「1つでも具体的に改善された」と言えるか?
次回:任正非(Ren Zhengfei)



