【ビジネス事例シリーズ Lesson 71】「TOTO」── ウォシュレットで世界を変えた「水回りのイノベーター」

TOTO──
「おしりだって、洗ってほしい。」
100年の使命感が世界のトイレを変えた
衛生陶器シェア約6割。ウォシュレット累計5,000万台超。水回り専業で売上高7,245億円を築いた「専門特化」の教科書
🔗 TOTO公式サイト(https://jp.toto.com/)前回のLesson 70では、LIXILから「5社統合で住まいの全部を握る力」を学びました。
トステム・INAX・新日軽・サンウエーブ・東洋エクステリアを束ね、GROHEで世界を取り、リフォーム構成比54%で国内を守る。売上収益1兆5,047億円の巨人。
部品で勝てないなら全体で勝て。市場が縮むなら伸びる場所にシフトしろ──それがLIXIL式の生存戦略でした。
厠を変えた男── 大倉和親の「使命感の100年」
1903年。
大倉和親は父・大倉孫兵衛とともに欧州を視察していた。
そこで目にしたのは、真っ白で清潔な衛生陶器──浴槽、洗面台、水洗便器。
一方、当時の日本のトイレは汲み取り式の「厠(かわや)」。家の外に置かれ、不浄の場所として忌み嫌われていた。
和親は確信した。
「日本にもいずれは水洗トイレの時代がくる。衛生的な陶器の便器を普及させることは、必ずや社会の発展に貢献する」。
だが、当時の日本には下水道がほとんど整備されていない。水洗便器など普及する見込みは皆無に等しかった。
それでも和親は動いた。
1912年、私財を投じて製陶研究所を設立。2年後、国産初の陶製腰掛式水洗便器を完成させる。
1917年、北九州・小倉の地に東洋陶器株式会社(現・TOTO)を設立。
社名の「東洋」には、市場を欧米にとどまらずアジア全域に広げたいという志が込められていた。
しかし衛生陶器だけでは経営が成り立たない。
TOTOは食器や花瓶を作りながら、需要が生まれる日を何十年も待ち続けた。
水洗便器の本格普及は戦後の下水道整備を待たねばならなかった。
創業者が見た夢が現実になるまで、実に半世紀──。
欧州の製品を凌駕し、世界の需要に応えて、ますます貿易を盛んにすることを決意する。
問題:「水回り専業」が直面する構造的な壁
TOTOは日本の衛生陶器で約6割のシェアを持つ圧倒的トップブランド。
だが、専業メーカーゆえの構造的課題は深い。
- 国内新築着工件数の長期減少。人口減・世帯減で水回り製品の新設需要が縮小し続ける
- 競合LIXILは窓・キッチン・外壁まで「住まい全体」を提案できるが、TOTOは水回り専業。領域の狭さがハンディになりうる
- 中国市場は不動産市況の低迷と消費者行動の変化で売上が前年比20%超の減収。北京・上海の2工場閉鎖を決断
- ウォシュレットは日本で普及率76%超に達し成熟。海外では「おしりを洗う」文化自体がなく、普及に時間がかかる
新築で厳しい状況が続いている。リモデルでカバーするという構図は従来から変わっていない。
対策①:「ウォシュレット」── 文化を発明して市場を創造する
TOTOの最大の武器は、「おしりを洗う」という文化そのものを日本に根付かせたこと。
既存市場のシェアを奪ったのではない。存在しなかった市場を丸ごと創り出した。
最大の壁は「そもそも日本人にはおしりを洗う習慣がない」ことだった。
TOTOはウォシュレット設置トイレを紹介する「ウォシュレットマップ」を配布し、一般家庭でのモニター制度を展開。
そして1982年、あのCMが流れた──「おしりだって、洗ってほしい。」
このコピーが認知度を一気に高め、ウォシュレットは日本のトイレ文化を根底から変えた。
1993年の「ネオレストEX」でタンクレスを実現し、トイレを「レストルーム」に変えた。
「トルネード洗浄」「セフィオンテクト(防汚技術)」「きれい除菌水」──
清潔さを技術で実現し続ける姿勢が、TOTOの「良品の供給」という創業理念そのものだ。
iFデザイン賞は12年連続受賞。デザインと技術の融合で、トイレの概念を更新し続ける。
副業でも同じ。既存市場のシェアを奪い合うな。「そもそも存在しなかった需要」を自分で創り出せ。TOTOが「おしりを洗う」文化を作ったように、顧客が気づいていない不便を言語化し、解決策を提示する。市場を創った者が、その市場を独占する。
対策②:「日本のトイレ文化を世界へ」── 17カ国・地域への衛生革命
TOTOは現在、世界17カ国・地域で事業を展開する。
1977年のインドネシア合弁会社設立を皮切りに、1989年に米国、その後アジア・欧州・中東へ。
海外戦略の核は「ウォシュレットを世界の当たり前にする」こと。
🔴 海外市場の壁
「おしりを洗う」文化がない
トイレにコンセントがない国も多い
GROHE・Kohlerなど欧米ブランドが既存市場を支配
日本の常識が通用しない
🟢 TOTOの攻め方
著名ホテル・空港への納入で「体験」を作る
販売網の拡充とプランマー(水道工事店)との協業
「きれいで気持ちいい」を体験させれば勝てる
米州はウォシュレット拡販で増収増益達成
2025年3月期の海外住設事業は、米州・アジアが増収増益。
米州は中古住宅販売が低調でも、ウォシュレットの拡販が牽引。
アジアは台湾が好調、ベトナムは市況低迷が続くものの全体では成長。
欧州では販売網の拡充と著名物件採用を推進し、ウォシュレット等の販売増により黒字化を達成。
ただし、中国大陸事業は売上高20.4%減・営業赤字35億円と深刻な状態。
TOTOは北京・上海の2工場(従業員約2,000人・売上合計157億円)の閉鎖を決断した。
「耐える」のではなく「変える」──構造改革で安定収益体制への転換を図る。
副業でも同じ。自分のスキルを海外に売り出すとき、最初から万人に売ろうとするな。まず「著名な実績」を1つ作れ。TOTOが高級ホテルに納入して体験を作ったように、有名企業や業界リーダーの案件を1つ取れば、それが名刺代わりになって市場が開ける。
対策③:「あんしんリモデル」と「新領域」── 専業の深さで横に広がる
新築が減る日本市場で、TOTOの国内戦略は2つの柱で構成される。
①リモデル(リフォーム)の深掘りと、②水回り技術を活かした新領域への展開だ。
2018年に開始した「あんしんリモデル戦略」は年々進化。
ショールームだけでなくオンライン上でも一人ひとりに寄り添ったサービスを提供し、リモデル需要を喚起。
さらにTOTO・大建工業・YKK APの3社アライアンスで水回り・内装・窓を横断した提案力を強化。
自社だけでカバーできない領域はパートナーと組む──専業だからこそ、連携が活きる。
もう一つの柱が「新領域事業」──半導体製造装置向けのセラミック部材だ。
TOTOが100年以上磨いてきた「焼き物の技術」が、まったく異なる市場で花開いた。
2025年3月期、新領域事業は大幅な増収増益を達成し、日本住設と海外住設の伸び悩みを補った。
半導体市場の拡大が追い風となり、TOTO全体の営業利益13.4%増を牽引した。
TOTOの強みは何か。
自慢できるモノづくり、丁寧なサービス、
そして何より「人」。
どうしても親切が第一。
副業でも同じ。一つの専門技術を深掘りし続けろ。その技術は、思いもよらない市場で花開くことがある。TOTOの「焼き物技術」が半導体部材になったように、あなたのスキルも異業種で求められる可能性がある。専門を極めた者だけが、越境できる。
解決:「水回り専業」が到達した100年の数字
2025年3月期、売上高7,245億円(前年比3.2%増)、営業利益485億円(13.4%増)。
2026年3月期は売上高7,535億円、営業利益525億円の増収増益を計画する。
LIXILのように住まい全体を束ねるのではなく、水回りだけを100年以上深掘りし続けた結果、衛生陶器シェア約6割、ウォシュレット累計5,000万台超という圧倒的な専門性を手に入れた。
そしてその専門性は、トイレの枠を超え、半導体というまったく別の成長市場にまで到達した。
「広く浅く」ではなく「深く、そして遠くへ」──これがTOTO式の生存戦略だ。
教訓:TOTOが教える「専門特化で勝ち続ける」4つの原則
市場を奪うな。市場を「創れ」。
専門を極めた者だけが、世界の文化を変えられる。
市場がなければ「文化ごと」創れ── ウォシュレットは習慣の発明だった
「おしりを洗う」習慣がなかった日本に、ウォシュレットで新しい文化を根付かせた。既存市場を奪うのではなく、存在しなかった市場をゼロから創造した。
- 顧客が気づいていない不便を見つけ、言語化しろ
- 「こんなの要らない」と言われても、体験させれば価値が伝わる
- 市場を創った者が、その市場の第一人者になる
副業でも、誰もやっていないサービスを「常識にする」挑戦をしろ。
半世紀待てるか── 時代が追いつくまで「良品」を磨き続ける覚悟
大倉和親が1903年に見た夢は、下水道が普及する戦後まで実現しなかった。TOTOは食器で経営を支えながら、50年間ずっと衛生陶器を磨き続けた。
- 正しいビジョンでも、市場の準備が整わなければ花開かない
- 「まだ早い」と「間違っている」は違う
- 待っている間もスキルを磨き続ければ、時代が追いついたとき独壇場になる
副業でも、今すぐ結果が出なくても、本物のスキルを磨く時間は無駄にならない。
専門を極めれば「越境」できる── 焼き物技術が半導体を支える
TOTOの100年の「焼き物技術」が、半導体製造装置のセラミック部材という全く別の成長市場で大幅増収を達成。一つの領域を極めた者だけが、異業種への越境を果たせる。
- 「専門が狭い」はハンディではない──深さこそが武器
- 極めた技術は、思いもよらない場所で再利用できる
- ジェネラリストにはできない「越境」が、スペシャリストにはできる
副業のスキルも、極めれば異業種で引っ張りだこになる。
「撤退」と「親切」を両立せよ── 中国工場閉鎖と「どうしても親切が第一」
中国の2工場閉鎖という厳しい決断をしながらも、「どうしても親切が第一」を企業文化の核に据え続ける。切る勇気と、残す覚悟の両立。
- 不採算事業を切る判断は、ブランドを守るための決断
- NG品を絶対に市場に出さない──品質への妥協なき姿勢がブランドを作る
- 「人」こそ最大の競争優位──モノづくりもサービスも、結局は人の力
副業でも、品質に妥協した案件は一つも出すな。ブランドは一瞬で壊れる。
📋 今日からできるTOTO式 副業改善
□ 「まだ誰も言語化していない不便」を1つ見つける
TOTOが「おしりを洗いたい」という潜在ニーズを掘り起こしたように、あなたの業界で顧客が「仕方がない」と我慢していることを探そう。それを言語化し、解決策を形にすれば、まだ誰も手をつけていないブルーオーシャンが開ける。
□ 自分のコア技術の「越境先」を3つリストアップする
TOTOの焼き物技術が半導体部材になったように、あなたのスキルが活きる「異業種」を3つ考えてみよう。Webデザイナーなら建築、ライターなら医療、プログラマーなら農業──専門を極めた者だけが越境できる。
□ 「体験」を1つ無料で提供する
ウォシュレットは「使えばわかる」商品だった。だからTOTOはモニター制度でまず体験させた。あなたのサービスも、まず無料で体験させるトライアルを設計しよう。「体験させれば勝てる」は、最強のマーケティング戦略だ。
🔗 まとめ:TOTOが証明したのは「専門特化の底力」
住まい全体を束ねたLIXILの真逆を行く、水回り専業100年の戦略。
広がりではなく深さで勝ち、深さが越境を可能にした。
市場がなければ、文化ごと創れ。
専門を極めれば、世界が迎えに来る。
「おしりだって、洗ってほしい。」──
その一言が、日本のトイレを世界一にした。
Lesson 72:日立製作所
創業の地・日立鉱山の修理工場から、売上収益10兆円超のグローバル複合企業へ。
「社会イノベーション事業」に全力で舵を切り、Lumadaで世界のDXを牽引する日立の大変革に迫る。














