【ビジネス事例シリーズ Lesson 70】「LIXIL」── 新築依存からリフォームへ転換する住宅設備の巨人

LIXIL──
5社統合で「住まいの全部」を
一社で握った巨人の設計図
トステム、INAX、新日軽、サンウエーブ、東洋エクステリア。100年の歴史を束ねて売上収益1.5兆円のグローバル企業へ
🔗 LIXIL公式サイト(https://www.lixil.com/jp/)前回のLesson 69では、アスクルから「流通の再設計で独壇場を作る力」を学びました。
プラスの社内ベンチャーから売上高4,811億円のEC企業へ。「明日届く」の約束を自前物流で守り抜き、エージェント制度で文具店を敵ではなく味方に変えました。
良い商品だけでは勝てない。良い「届け方」を設計した者が、業界の地図を塗り替える──それがアスクルの教訓でした。
100年の歴史を束ねた「住まいの総合企業」の誕生
2011年4月1日。
日本の住宅設備・建材業界を代表する5つのブランドが、ひとつの名前に統合された。
LIXIL──「Living」と「Life」に共通する「LI」に、未知数を表す「X」を加えた造語。
住まいの可能性をどこまでも広げるという意志を、その名に込めた。
起点は1923年──潮田竹次郎が東京都墨田区に開いた木製建具小売「妙見屋商店」。
その息子・潮田健次郎が1949年に法人化し、日本建具工業(後のトステム)を設立。
住宅用アルミサッシの製造に乗り出し、高度成長期の住宅ラッシュとともに業界トップに躍り出た。
一方のINAXは1924年設立の伊奈製陶がルーツ。1967年に国産第1号の温水洗浄便座を製造。
この2社が2001年に経営統合し「INAXトステム・ホールディングス」(後の住生活グループ)が誕生。
2010年に新日軽とサンウエーブ工業を完全子会社化し、2011年4月に5社合併でLIXILが発足した。
さらに2013年には米国最大の衛生陶器メーカーアメリカン・スタンダード(約531億円)を買収。
2014年にはドイツの高級水栓ブランドGROHEを関連会社化。
国内統合にとどまらず、グローバルの水回り市場を一気に押さえにかかった。
LIXILの歴史は、日本の住生活文化の歴史そのもの。
高度成長期を住生活の面から支えてきた5社が、ひとつになった。
問題:「住まいの部品メーカー」が直面した4つの壁
5社がそれぞれ別々に事業を営んでいた時代、各社は同じ構造的課題に直面していた。
- 国内新築着工件数の長期的な減少。人口減・世帯減で市場のパイ自体が縮小し続ける
- 窓、トイレ、キッチン、外壁──商材ごとに別会社が営業。顧客は「住まい全体」を提案してほしいのに、部品単位でしか提案できない
- 営業拠点・ショールーム・管理部門が各社で重複。間接コストが膨大で、価格競争力が弱い
- 海外市場はTOTOとの競合に加え、GROHE、Kohler、American Standardなど欧米ブランドが圧倒的。国内ブランドでは太刀打ちできない
商材ごとに分かれた事業会社の組織を再編し、営業拠点やショールーム、管理部門を統合する。
グローバル化の進展に対応し、住宅リフォームとアジア市場に経営資源を集中投入する。
対策①:「5社統合」── 部品メーカーから住まいの総合企業へ
LIXILの統合戦略の核心は「住まいのバリューチェーンを一社で完結させる」こと。
窓(トステム)、水回り(INAX)、キッチン(サンウエーブ)、外装(東洋エクステリア)、ビル建材(新日軽)──
これまでバラバラだった「住まいの部品」を一つの提案に束ねる。
🔴 統合前(5社バラバラ)
窓はトステム、トイレはINAX、キッチンはサンウエーブ…と別々に提案
営業・ショールーム・管理が各社で重複
顧客は複数社と交渉する手間
国内ブランドの知名度が分散
🟢 統合後(LIXIL)
窓も水回りもキッチンも外壁も「LIXIL」一社で提案
拠点統合でコスト削減・意思決定を高速化
ワンストップで住まい全体を任せられる
「LIXIL」ブランドに集中投資
重要なのは、統合後もトステム・INAX等の商品ブランドは維持した点だ。
顧客にとって馴染み深いブランド名は残しつつ、企業としての意思決定・営業・物流を一本化する。
「コーポレートブランドは統合、プロダクトブランドは維持」──この二層構造が、統合の摩擦を最小化した。
副業でも同じ。複数のスキルをバラバラに売るな。「デザイン」「ライティング」「SNS運用」──別々に営業するのではなく、「ブランディング一式」として束ねて提案しろ。ワンストップで任せられる存在になれば、単価も信頼も上がる。
対策②:「グローバル買収」── GROHEとアメリカン・スタンダードで世界を取る
国内統合だけでは、新築着工件数の長期減少をカバーできない。
LIXILが選んだ次の一手は、海外の一流ブランドを買収してグローバル市場を一気に取ること。
2025年3月期の海外事業(LWT海外)売上収益は4,929億円(前年比3.5%増)。
欧州は現地通貨ベースで9%増収、IMEA(インド・中東・アフリカ)地域は20%増収。
GROHEブランドのグローバル成長が牽引し、海外事業利益は前年から148億円改善し166億円へ。
一方、米国は不動産市況の低迷で9%減収、中国も13%減収と苦戦が続く。
不採算事業の米国浴槽事業を譲渡し、タイ工場を閉鎖するなど、構造改革の「切る勇気」も見せた。
LIXILのグローバル戦略は「買って終わり」ではなく、「買って、磨いて、切るべきは切る」だ。
副業でも同じ。国内市場だけを見るな。海外クライアント、英語圏のプラットフォーム、グローバルなマーケットプレイス──「いまの自分のスキルを、別の市場で売る」発想を持て。LIXILがGROHEを買ったように、海外の信頼あるパートナーと組むことで一気にマーケットが広がる。
対策③:「新築→リフォームへの軸足移動」── 縮む市場で伸びる領域を掴む
日本の新築着工件数は長期的に減少を続けている。
この構造的な逆風に対し、LIXILが打ち出したのが「リフォーム市場への全力シフト」だ。
2025年3月期、水回り国内事業(LWT国内)のリフォーム売上構成比は前年比3.0ポイント増の54%に到達。
新築向けが低調でも、リフォーム向け売上の増加がカバーし、LWT国内は増収増益(売上収益4,350億円・前年比3.4%増、事業利益243億円・16.5%増)。
窓リフォームの受注は増加傾向にあり、省エネ補助金や断熱ニーズの高まりが追い風に。
LIXILの強みは、窓も水回りもキッチンも外壁もすべて自社で提案できること。
リフォーム顧客にとって、複数メーカーに個別発注するよりLIXIL一社に任せる方が圧倒的に楽だ。
5社統合の真のシナジーは、「新築の減少」という逆境でこそ発揮された。
国内事業は新築着工件数が計画を下回ったが、
リフォーム向け販売が補った。
リフォーム事業をさらに強化する。
副業でも同じ。「新規案件」だけを追い続けるな。既存顧客のリピート・追加・改善──つまり「リフォーム型ビジネス」を設計しろ。新規を1件取るコストは、既存顧客のリピートの5〜10倍かかる。LIXILがリフォーム構成比54%に到達したように、ストック型の収益基盤を育てろ。
解決:「住まいの全部」を握った巨人の数字
2025年3月期、売上収益1兆5,047億円(前年比1.4%増)、事業利益313億円(35.3%増)、営業利益297億円(81.6%増)。
2026年3月期は売上収益1兆5,400億円、事業利益350億円の増収増益を計画する。
100年前に墨田区の建具店から始まった事業が、GROHE・American Standardを傘下に持つ世界有数の住宅設備メーカーに成長した。
国内では「住まいの全部」をワンストップで提案し、海外ではGROHEブランドで欧州・インド・中東を攻める。
新築依存からリフォームへ、国内依存からグローバルへ──二つの軸足移動を同時に進める胆力が、LIXILの本質だ。
教訓:LIXILが教える「束ねて、広げて、シフトする」4つの原則
部品で勝てないなら、「住まい全体」で勝て。
市場が縮むなら、伸びる領域にシフトしろ。
国内で頭打ちなら、世界ブランドを手に入れろ。
「部品売り」から「ソリューション売り」へ── バリューチェーンを束ねろ
窓だけ、トイレだけ、キッチンだけを売っていた5社が統合し、「住まい全体」を一社で提案できるようになった。部品の集合体がソリューションになった瞬間、顧客体験も利益率も変わる。
- 自分のスキルを「単品」で売るな──関連スキルを束ねて「パッケージ」にしろ
- ワンストップで提案できる存在は、顧客にとって圧倒的に楽
- 「楽」は価格以上の価値を持つ
副業でも、「デザインもライティングも一括で任せたい」という顧客の声に応えろ。
「ブランドは残す、組織は統合する」── 二層構造で摩擦を減らせ
LIXILはトステムやINAXの商品ブランドを維持しつつ、コーポレートブランドを統一した。顧客の安心感と組織の効率化を両立させる知恵。
- 統合するものと残すものを明確に分ける
- 「名前を変える=信頼を失う」とは限らないが、慎重さは必要
- 既存の信頼資産を壊さずに、新しい器に入れ替える技術
副業でも、過去の実績・ポートフォリオは資産。新ブランドに移行しても、過去の信頼は活かせ。
縮む市場で「伸びる領域」にシフトせよ── リフォーム構成比54%の設計
新築着工件数が減り続ける日本で、LIXILはリフォーム売上構成比を54%にまで引き上げた。市場全体が縮んでも、その中の成長セグメントを掴めば伸びられる。
- 市場全体の縮小に絶望するな──成長セグメントは必ずある
- 新規顧客の獲得コストは、既存顧客のリピートの5〜10倍
- 「既存のお客様にもう一度売る」仕組みがストック型ビジネスの基盤
副業の売上も、リピート率50%を超えたら安定する。
「買って、磨いて、切る」── グローバル買収の三拍子
GROHE・American Standardを買収し、不採算の米国浴槽事業は譲渡。タイ工場は閉鎖。LIXILのM&Aは「買う勇気」と「切る勇気」の両輪で回る。
- 「買う」だけでは価値は生まれない──統合して磨くフェーズが本番
- 不採算を切る判断を先延ばしにするな
- 撤退は敗北ではなく、リソースの再配分
副業でも、利益が出ない案件は潔く手放し、伸びる領域に集中しろ。
📋 今日からできるLIXIL式 副業改善
□ バラバラのスキルを「ワンストップパッケージ」に束ねる
デザイン、ライティング、SNS運用、コンサル──個別に売っているスキルを「ブランディング一式」「LP制作+広告運用セット」のようにパッケージ化しよう。LIXILが5社を束ねて「住まい全体」を提案したように、まとめ売りが単価と信頼を上げる。
□ 「リフォーム型収益」の比率を計算する
直近3ヶ月の売上で、新規顧客とリピート顧客の比率を出してみよう。リピート率が30%未満なら危険信号。LIXILのリフォーム構成比54%を目標に、既存顧客へのアップセル・追加提案の仕組みを作ろう。
□ 利益の出ない案件を1つ「切る」
LIXILが米国浴槽事業を譲渡しタイ工場を閉鎖したように、あなたも利益率の低い案件を1つ手放してみよう。空いたリソースを伸びる領域に振り向ければ、全体の利益率が改善する。
🔗 まとめ:LIXILが設計したのは「住まいの全体像」を握る競争優位
5社の100年を束ね、GROHEで世界を取り、リフォームで国内を守る。
LIXILが証明したのは、「部品」ではなく「全体」を握る者が勝つということだ。
部品で勝てないなら、全体で勝て。
市場が縮むなら、伸びる場所にシフトしろ。
束ねて、広げて、シフトする──
それがLIXIL式の生存戦略だ。
Lesson 71:TOTO
ウォシュレットで世界の「トイレ文化」を変えた日本発のグローバルブランド。
「きれいで気持ちいい」を技術で実現し続けるTOTOの100年と、水回りに賭けた専門特化戦略に迫る。















