【経営者の生きざま No.59】渋沢栄一──道徳と経済を一本化した日本資本主義の父

この人物を取り上げる理由
2024年7月、新一万円札の顔として登場した渋沢栄一。
明治という激動の時代に、農家の子として生まれながら、生涯で500社以上の企業・約600の社会公共事業に関わった空前絶後の起業家だ。
「論語と算盤」という言葉が示す通り、彼は「儲けること」と「世のために尽くすこと」を決して切り離さなかった。
副業・個人ビジネスで稼ぎ始めると、やがて「これはお金のためだけでいいのか?」という問いにぶつかる人は多い。
渋沢はその問いに、150年前にすでに答えを出していた。
現代の副業人・個人事業主が彼から学ぶべきことは、想像以上に多い。
── 渋沢栄一
人生の軌跡
武蔵国榛沢郡血洗島村(現・埼玉県深谷市)の農家兼藍玉商人の家に生まれる。幼少期から父親の商いを手伝い、商才と読書への意欲を育む。
徳川昭武(15代将軍慶喜の弟)に随行してパリ万博へ渡欧。欧州の近代的な銀行・株式会社・社会インフラを目の当たりにし、「合本主義(株式会社方式)」の思想を確立する。
大蔵省退官後、第一国立銀行(現・みずほ銀行の源流)の総監役(後に頭取)に就任。以後、官僚の地位を捨て民間経済人として生きる道を選ぶ。
東京商法会議所(現・東京商工会議所)初代会頭に就任。企業単体の利益追求ではなく、業界・社会全体の底上げを目指すプラットフォーム型の活動を展開し始める。
第一国立銀行頭取を辞任し、実業界から引退を表明。しかし社会事業・教育・福祉活動は継続。以後20年以上にわたり東京養育院長などを務め、「稼ぐこと=社会貢献」を体現し続ける。
91歳にて永眠。生涯に関与した企業・社会事業は500社・600団体以上。ノーベル平和賞候補に2度挙げられた、日本が生んだ最大の実業家として歴史に刻まれる。
思考法①:「論語と算盤」── 道徳と利益を一本化する
渋沢が生涯をかけて伝えようとした核心は、「道徳なき経済は罪悪であり、経済なき道徳は寝言である」という思想だ。
明治の実業界では「商売は武士の行うことではない」「儲けることは卑しい」という価値観が根強かった。
彼はその偏見を真正面から打ち砕き、「正しい商いこそが国を豊かにする」と説き続けた。
副業を始める多くの人が「お金を稼ぐことへの罪悪感」を抱える。渋沢の思想は、その呪縛を解くための処方箋になる。
「なぜ稼ぐのか」を定めれば、稼ぐことへの迷いは消える
渋沢は「利益を求める行為そのものは悪ではない。問題は、どんな目的で、どんな手段で稼ぐかだ」と断言した。自分の副業が「誰かの役に立っているか」「正直な対価を受け取っているか」を問い直すことで、ビジネスは格段に力強くなる。稼ぐことへの迷いがなくなった人間は、圧倒的に前へ進む速度が上がる。論語(志)と算盤(実行)を同時に持て。これが渋沢の最初の教えだ。
- ▶ 副業を始める前に「この仕事は誰のどんな問題を解決するか」を一文で書き出してみる
- ▶ 価格設定に迷ったとき「この対価は提供価値に対して正直か」を基準に判断する
- ▶ SNS発信やサービス説明文に「あなたのために」という視点を必ず盛り込む
思考法②:「合本主義」── 一人でやらず、仕組みに乗れ
渋沢がパリで衝撃を受けたのは、株式会社という「仕組み」だった。
個人の資力には限界がある。しかし多くの人の資本と知恵を「合わせる」ことで、個人では到底不可能なことが実現できる。
彼はこれを「合本主義」と呼び、生涯を通じて「個人の英雄ではなく、仕組みをつくる人」であり続けた。
副業においても「自分一人でこなせる量」には天井がある。渋沢ならば、その天井をどう突き破るかを真っ先に考えるはずだ。
自分の力だけで完結させようとするな。「仕組み」が人を超える
渋沢が500社に関われたのは、彼自身がすべての会社を経営したからではない。「銀行(資金の仕組み)」「商法会議所(情報と人脈の仕組み)」「株式会社制度(出資と責任の仕組み)」を整備したからだ。副業でも同じで、自分のノウハウをテキスト化・動画化・コミュニティ化することで、自分が寝ていても価値が届く仕組みを持てる。手を動かす副業から、仕組みが稼ぐ副業へ。これが次のステージだ。
- ▶ 毎回やっている作業をテンプレート化・マニュアル化し、外注や自動化の土台をつくる
- ▶ 自分のノウハウをnote・電子書籍・動画講座など「コンテンツ」に変え、時間を切り離した収益源を持つ
- ▶ 同じ方向を向く副業仲間・異業種の人とつながり、互いのリソースを「合本」する小さなコラボを試みる
思考法③:「多動力と継続力」── 広く動きながら、深く根を張る
渋沢の生涯を表面だけ見ると「なぜそんなに多くのことができたのか?」と疑問に思うかもしれない。
農家・尊王攘夷の志士・幕臣・官僚・銀行家・実業家・社会事業家……驚くほど多様な顔を持つ。
しかし彼の軸は一貫していた。「日本の民間経済を強くする」というただひとつの志だ。
多動に見えて、実は深く根を張っていた。副業で「あれもこれも」と迷う人ほど、この構造を知るべきだ。
「軸」を持った人間だけが、多動を武器にできる
渋沢は「自分の志に合う仕事ならばいくつでも引き受ける。合わぬ仕事は断る」という姿勢を貫いた。彼が多くの事業に関われたのは「何でもやる人」だったからではなく、「自分の哲学に合う案件しか受けない」という強固なフィルターがあったからだ。副業でも同じ。ターゲット・提供価値・自分の得意を一本の軸として定めれば、多様な展開が可能になる。軸がないまま広げると、消耗するだけだ。
- ▶ 「自分が副業で最終的に実現したいこと」を一文で書き、すべての案件判断の基準にする
- ▶ 新しい副業チャンスが来たとき「自分の軸に沿っているか?」を先に問い、沿っていれば積極的に動く
- ▶ 副業の種類を増やすより「同じ軸の深掘り」を優先し、専門性と信頼を積み上げてから横展開する
渋沢栄一とは「稼ぐことと、善く生きることは矛盾しない」と証明し続けた人物だ。
道徳を持って正しく稼ぎ、その富を社会に還元する──その姿勢こそが、500の事業を束ねる求心力になった。
副業・個人ビジネスで長く生き残りたいなら、「なぜ稼ぐか」の答えを持て。それが渋沢の遺言だ。
あなたへの問いかけ
- ▶ あなたの副業・ビジネスは、誰のどんな問題を解決しているか。一文で言えるか?
- ▶ 今の仕事のやり方は「自分の手」に依存しすぎていないか。仕組み化できる部分はどこか?
- ▶ あなたの副業の「軸(志)」は何か。その軸に沿った行動を、今週どれだけ取れているか?
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